出産という人生最大の仕事を終えたばかりのお母さんへ。まずは、本当にお疲れさまでした。
それなのに、「眠りたいのに眠れない」「入院中のベッドで、目が冴えて朝になってしまった」「退院してからも、細切れの授乳で体が休まらない」。産後の眠れなさに戸惑っている方はとても多いです。
いま、あなたの体は全治数か月の重傷を負っているのと同じ状態です。そのうえで昼夜を問わない育児が始まります。このページでは、産後に眠れなくなる理由から、入院中と退院後それぞれの休み方、周囲やプロの手を借りる基準、受診を考える目安までをまとめました。
産後に眠れなくなる理由
命がけの出産による、脳の興奮
出産直後は交感神経が極度に高ぶっています。「眠りたいのに、頭だけが冴えている」のは、大仕事を終えた脳の興奮がまだ冷めていないからです。気力や性格の問題ではありません。
女性ホルモンの劇的な急減
妊娠中に高く保たれていた女性ホルモンは、出産を境に一気に下がります。この急激な変化が、眠りの深さと気分の両方に影響します。理由もないのに涙が出るのも、この時期にはよくあることです。
入院中という慣れない環境
他の赤ちゃんの泣き声、決まった時間の検温、いつもと違う枕とベッド。環境が変わるだけで、人の眠りは浅くなります。加えて後陣痛や傷の痛みが重なります。
入院中の眠れなさについては出産直後、眠りたいのに眠れない…入院中のデリケートな心身をときほぐす睡眠のアドバイスで詳しくお話ししています。
「眠くないから大丈夫」という錯覚
産後はアドレナリンが出て、一時的にハイな状態になることがあります。このとき「眠くないから平気」と感じてしまいますが、それは脳が疲労を感じ取れなくなっているサインです。あとからドッと疲れが押し寄せます。
この落とし穴はホルモンの影響で「寝なくても大丈夫」と錯覚する産後の危険な罠にまとめています。
産後の睡眠不足を甘く見ないでください
「寝不足くらい」と周囲からも軽く見られがちですが、産後の睡眠不足は深刻です。
脳の疲労から判断力が低下し、感情のコントロールが難しくなる
免疫力が落ち、体調を崩しやすくなる
深い睡眠が取れないと、メンタルを安定させる物質が脳内でつくられにくくなり、産後うつや育児ノイローゼのリスクが高まる
子宮は激しい痛みをともなって収縮を続け、骨盤はぐらつき、ホルモンは激変しています。その体で睡眠を削れば、どこかで必ず限界が来ます。
詳しくは産後の睡眠不足を甘く見ないで。限界を迎える前に知っておきたい「命を守る休息」の重要性をお読みください。
入院中のベッドの上でできること
動きが制限され、香りものも持ち込めない病室でも、できることがあります。
腹式呼吸で、たかぶった神経を鎮める
鼻からゆっくり吸ってお腹をふくらませ、口から長く吐きます。吐く時間を吸う時間より長くするのがコツです。これだけで副交感神経が優位になり、体が休息へ向かいます。
筋弛緩法で、体の力を順番に抜く
手をぎゅっと握って5秒、パッと力を抜く。次に肩を上げて5秒、ストンと落とす。いったん力を入れてから抜くことで、自分がどれだけ力んでいたかに気づけます。脳の緊張もいっしょにゆるみます。
聴覚と触覚でリラックスする
イヤホンで静かな音を流す、やわらかいタオルを手元に置く。眠れなくても、感覚をやさしいものに向けるだけで休息になります。
具体的なやり方は入院中のベッドの上でもできる深い呼吸とリラックスの技術でご紹介しています。
退院後、眠る時間を確保するために
「ワンオペで頑張らなきゃ」を手放す
この時期にいちばん危ないのは、「自分がやらなければ」という思い込みです。部屋が散らかっていても、お惣菜に頼っても、お母さんが眠るほうが何倍も大切です。
頼れる先を、先に調べておく
疲れ切ってからでは、調べる気力すら残りません。元気なうちに選択肢を知っておいてください。
自治体の産後ケア事業。宿泊型・日帰り型・訪問型があり、助産師のケアと休養の場を提供しています。お住まいの市区町村の窓口で申請します
家事代行・シッター。「全部お願いする」必要はありません。夕食の準備だけ、掃除だけでも十分に楽になります
家族への具体的な依頼。「手伝って」ではなく「21時から2時間、赤ちゃんを見ていて」と時間と内容を区切って伝えます
頼る基準とスケジュールの組み方は産後ママの心身を守るために。周囲やプロの手を借りる勇気を持とうにまとめています。
まとめて眠ろうとしない
産後は、まとまった睡眠を取ること自体が難しい時期です。赤ちゃんが寝たら、家事より先に自分が横になる。それを最優先の習慣にしてください。
受診・相談を考えたほうがよい目安
次のような場合は、1か月健診を待たずに、産院や地域の保健センターへご相談ください。
眠れない状態が2週間以上つづき、日中もつらさが取れない
気分の落ち込みが強い、理由もなく涙が止まらない日がつづく
赤ちゃんをかわいいと思えない、自分を責めてしまう
強い不安や動悸で、体を休めることができない
発熱、出血が増えた、傷の痛みが強くなった
産後の心の不調は、誰にでも起こりうるものです。早く相談するほど、回復も早くなります。「こんなことで」と迷う必要はまったくありません。
添い寝と授乳の姿勢について
夜中の授乳で体を起こすたびに目が覚めてしまう。そのつらさから添い寝や添い乳を考える方は多いです。
ただし安全にかかわる部分なので、自己判断で始めないでください。赤ちゃんの月齢、寝具の柔らかさ、上のお子さんの有無などで注意点が変わります。産院や助産師に、ご自宅の環境を具体的に伝えて確認してください。
そのうえでお伝えできるのは、授乳中の姿勢が体を痛める大きな原因になるということです。背中を丸めて長時間同じ姿勢でいると、肩や腰の痛みで眠りが浅くなります。授乳クッションや丸めたバスタオルで腕とお腹を支え、力を抜ける姿勢をつくってください。
パートナーと、夜をどう分けるか
「母乳だから自分しかできない」と抱え込みがちですが、夜間に分担できることはあります。
おむつ替えと寝かしつけを担当してもらう。授乳以外の工程を任せるだけで、お母さんの睡眠は確実に増えます
時間帯で区切る。「21時から翌1時までは自分が寝る時間」と決め、その間の対応をお願いします
休日の午前中をまとめて眠る。細切れでは回復しない分を、週に一度でも取り戻します
頼み方のコツは、「手伝って」ではなく時間と内容を区切って伝えることです。相手も何をすればよいか分かり、動きやすくなります。
眠れない夜を、ひとりで抱えないために
産後の夜がつらいのは、体の重さだけが理由ではありません。真夜中にひとりで赤ちゃんと向き合っていると、世界に自分しかいないように感じられるからです。
けれど、同じ時間に、同じように眠れずにいるお母さんは必ずいます。眠れない理由を知り、頼れる先を持ち、赤ちゃんが寝たら自分も横になる。それを重ねていけば、体は少しずつ戻っていきます。
下のコラムでは、それぞれのお悩みをもう少し掘り下げています。今夜の自分に必要なものから、どうぞ読んでみてください。
参考文献・引用元
厚生労働省「産後ケア事業の実施について:産婦の心身のケアと睡眠の重要性」
日本周産期・新生児医学会「産後うつ病・精神不調の予防と対応」
こども家庭庁「産後ケア事業について」
