「明日は検診なのに、一睡もできないまま朝になってしまった」「お腹が張って、毎晩のように徹夜のような状態がつづく」。妊娠後期、暗い部屋でひとり時計を見ながら、涙をこらえている妊婦様は本当にたくさんいらっしゃいます。

まずお伝えしたいのは、眠れない自分を責める必要はまったくないということです。臨月の不眠は、あなたの体が赤ちゃんを迎えるために準備を始めている、ごく自然なステップだからです。

このページでは、妊娠後期に眠れなくなる理由から、今夜からできる寝姿勢の工夫、それでも眠れない夜の過ごし方、そして受診を考える目安までを、順を追ってまとめました。気になるところから読んでいただいて構いません。

妊娠後期に眠れなくなる5つの理由

妊娠後期の不眠は、ひとつの原因ではなく、体の変化がいくつも重なって起こります。まずは「なぜ眠れないのか」を知ることから始めましょう。理由がわかるだけで、夜の不安はずいぶん軽くなります。

1. ホルモンが「育児モード」へ切り替わる

出産後に始まる2〜3時間おきの授乳に対応できるよう、ママのホルモンバランスが自律神経に働きかけ、あらかじめ睡眠を浅くしていきます。小さな胎動やわずかな尿意でもハッと目が覚めるのは、脳の覚醒水準が高まっているからです。

つまり、いま眠れないのは「赤ちゃんをお世話する練習」を体が先に始めてくれている証拠です。詳しくは妊娠後期に眠れない夜の過ごし方でお話ししています。

2. 大きくなった子宮が横隔膜を押し上げる

妊娠後期には子宮がみぞおちのあたりまでせり上がり、肺の下にある横隔膜を押し上げます。一度に吸える空気の量が物理的に少なくなるため、息苦しさを感じやすくなります。横になると重力でお腹の重みが胸にかかるので、夜間はさらに強まります。

息苦しさの仕組みと対処は妊娠後期、息苦しくて眠れない夜ににまとめています。

3. 頻尿で夜中に何度も起きる

大きくなった子宮が膀胱を圧迫するため、少し尿がたまっただけでトイレに行きたくなります。「寝入ったと思ったらまた起きる」の繰り返しで、まとまった睡眠が取りにくくなります。

4. 胎動とこむら返り

赤ちゃんが大きくなるにつれ、胎動も力強くなります。夜、ママが横になって静かにしている時間ほど胎動を感じやすく、肋骨を蹴られて目が覚めることもあります。ふくらはぎのこむら返りも、妊娠後期に増えるお悩みです。

5. 出産への不安と緊張

「無事に産めるだろうか」「陣痛はどれくらい痛いのだろう」。出産が近づくほど、こうした思いが夜になるとふくらみます。心の緊張は交感神経を高ぶらせ、体を眠りから遠ざけます。

今夜からできること。左を下にした「シムスの体位」

妊娠後期の不眠に対して、いちばん確実に効くのが寝姿勢を変えることです。道具も費用もほとんどかかりません。

仰向けを避ける理由

仰向けに寝ると、数キロに育った子宮と羊水の重みが、お腹の奥を通る太い静脈(下大静脈)を圧迫します。心臓へ戻る血液が減って血圧が下がり、息苦しさや動悸、冷や汗を引き起こすことがあります。これは「仰臥位低血圧症候群」と呼ばれ、妊婦様なら誰にでも起こりうるものです。

夜中に息苦しさや動悸でハッと目が覚めたときは、焦らずにすぐ体の左側を下にして横向きになってください。子宮による圧迫が解除され、数十秒でスーッと呼吸がラクになります。「苦しくなったら左を向く」を、お守りとして覚えておいてくださいね。

クッションで「自分だけの巣」をつくる

横向きになるときは、抱き枕1本だけでなく、複数のクッションやバスタオルを組み合わせます。

  • お腹の下に薄くたたんだバスタオルを差し込み、ベッドとの隙間を埋める。お腹が下に引っ張られる痛みが消えます

  • 上の足を受け止める抱き枕は、太ももから足首までが水平になる厚みのあるものを選ぶ

  • 背中の後ろにも大きめのクッションを添えて、寄りかかれるようにする

  • 首の下の枕は、横を向いたときに背骨がまっすぐになる高さに。気道が確保され、空気が肺の奥まで通りやすくなります

上半身を少しだけ前に倒し、うつ伏せ気味にするのがコツです。体重が広い面に分散され、肩の痛みも減ります。具体的な当て方は呼吸をラクにする魔法のポーズで写真のようにご説明しています。

寝返りと起き上がりをラクにする

臨月は寝返りひとつが一苦労です。同じ場所に体圧がかかり続けると、腰痛や股関節の痛みで目が覚めてしまいます。パジャマやシーツを、シルクやサテンなどすべりのよい素材に変えるだけで、引っかかりがなくなり、ゴロンと向きを変えられるようになります。

夜中にトイレへ起き上がるときは、お腹の力で正面から起き上がらないでください。一度完全に横向きになり、ベッドのヘリに両足を下ろしながら、下側の腕の肘と手のひらで床を押すようにして上体を起こします。この動きだけで、腰への負担が大きく変わります。

寝具の工夫と起き上がり方は大きなお腹を支えるポジショニングテクニックで詳しくお話ししています。

それでも眠れない夜の、心の置きどころ

工夫をしても眠れない夜は、きっとあります。そんな夜のために、知っておいてほしいことがあります。

横になって目を閉じているだけで、約7割は休めている

意識がはっきりしていても、布団に横になって目を閉じているだけで、起きているときの約7割の疲労回復効果があると言われています。目から入る光や情報を遮断するだけで、脳のエネルギー消費は大きく抑えられるからです。

「早く寝なきゃ」と思うほど、脳は危険を察知して覚醒します。思い切って「今日は眠れなくてもいい」と手放してしまうほうが、結果として眠りに近づきます。

30分たったら、いったん布団から出る

横になって30分以上たっても、足がムズムズしたりお腹が張って苦しかったりするときは、無理にベッドにとどまらないでください。薄暗いリビングに移り、あたたかい白湯をゆっくり飲みながら、心が穏やかになる本をめくってみましょう。

「眠くなるまでベッドに戻らない」を守ることで、脳がベッドを「眠れない場所」として覚えてしまうのを防げます。ウトウトしてきたら、その波に乗って寝室へ戻ります。

この考え方は「徹夜」を恐れない。横になるだけで得られる休息効果で、もう少しゆっくりお伝えしています。

眠れた時間を数えない

「今日は3時間しか寝ていない」と数えるほど、焦りは強くなります。妊娠後期は、まとめて眠れなくて当たり前の時期です。日中に体調のよいときへ少し横になったり、ソファで目を閉じたりするだけで、出産に必要な体力は十分に保てます。

日中の過ごし方で、夜は変えられます

夜だけを何とかしようとすると、かえって行き詰まります。日中の過ごし方を少し変えるほうが、体はこたえてくれます。

  • 朝、カーテンを開けて光を浴びる。体内時計が整い、夜の眠気が出やすくなります

  • 昼寝は15時までに、20〜30分。それ以上眠ると夜の眠りが浅くなります

  • 夕食はベッドに入る3時間前までに。胃の中を空にしておくと、横になったときの胃酸の逆流を防げます

  • 入浴はぬるめのお湯に。熱いお湯は交感神経を高ぶらせます

  • 寝る前のスマートフォンを控える。画面の光と情報量の両方が、脳を目覚めさせます

受診を考えたほうがよい目安

妊娠後期の不眠のほとんどは、体の自然な変化によるものです。ただし、次のような場合は、次の健診を待たずに主治医や助産師へご相談ください。

  • 眠れない状態が2週間以上つづき、日中もつらさが取れない

  • 気分の落ち込みが強く、涙が止まらない日がつづく

  • 強い動悸や息苦しさが、横向きになっても治まらない

  • お腹の張りが規則的にきている、出血がある

  • 足のむくみが急に強くなった、頭痛や目のかすみをともなう

「こんなことで相談していいのかな」と迷う必要はありません。妊婦健診は、そうしたことを話す場でもあります。

眠れない夜を、ひとりで抱えないために

妊娠後期の不眠でいちばんつらいのは、体の重さそのものより、真夜中にひとりきりだと感じることかもしれません。家族は眠っていて、友人に連絡するには遅すぎる時間。その孤独が、不安をさらにふくらませます。

けれど、同じ時間に、同じように眠れずにいるママは必ずいます。眠れない理由を知り、寝姿勢を整え、それでも眠れない夜は「横になっているだけで休めている」と自分に言ってあげる。その積み重ねで、夜は少しずつ穏やかになっていきます。

下のコラムでは、それぞれのお悩みをもう少し掘り下げてお話ししています。今夜の自分に必要なものから、どうぞ読んでみてください。

参考文献・引用元

  • 日本睡眠学会「睡眠薬・不眠症治療のガイドライン:妊産婦の睡眠」

  • こども家庭庁「妊産婦のための食生活・生活習慣ガイド」

  • 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン:妊婦の睡眠障害について」